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相対的危惧 / 後編

 庭先のシンボルツリーに植栽灯が影を作っている。豪門寺の鍵にセンサーが感知し、玄関ドアが解除される。少し重いドアを開け、後ろ手に施錠した。リビングに続く廊下は、間接照明に設定してある。

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 深夜の帰宅か朝帰りを見越しての菊地の配慮であろう‥と、豪門寺は上がり淵に紙袋を置き、極力物音を立てぬよう靴を脱ぐため屈んだ。その時、白い紙切れが目に留まり拾った。

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 『遠三根コーポレーション』と社名がプリントされたメモ用紙である。豪門寺は薄明かりの中、意味不明の文面に目を走らせる。それは、菊地の筆跡で、…領収しました 件の任務 承諾します 菊地要… と血判が押されている。メモの字面をしばらく眺めると、豪門寺は何とはなしに気配を窺った。リビングからはTVの音さえ聞こえず、足音を忍ばせさせるほどに静寂であった。豪門寺は『任務?何の?領収?金額なしの?』雲をつかむような憶測を前にしては、多くを思考せず、豪門寺はソレを内ポケットに納めた。受取人であろう‥其処に記された署名‥『遠三根 忍?』吐息の様な小声で豪門寺は呟いた。

 

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 内ポケットにそのメモを納めた。そして、足音を忍ばせ1段1段、階段を踏みしめて上る。寝室のドアノブに手を掛ける。静かにドアを開ける。もぞもぞ動きのなりに掛け布団が揺れるソコに、豪門寺は吸い寄せられていく。滑るような忍び足で、そっとベッドに近づくと、床に落ちてるパジャマ下に目を落とし、紙袋を静かに置くと脱ぎ捨てたブリーフに目を留める。  

 「寝入り端‥かな?」その呟きを聞くまで、菊地は階下の物音や豪門寺の気配に気付かなかったのである。胸はドキリと跳ね、足腰はギクリと硬直したまま、背後に佇む豪門寺の動作に意識を研ぎ澄ます。加速する心拍数に、菊地は息苦しさを覚えて身じろぐー。

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 枕元に置いた紙袋から、ベットの下に落ちてるパジャマ下と白いブリーフに目を移す。邪推からほくそ笑む。豪門寺はソレを抓み上げた。いたずら半分にブリーフを回して菊地の頭部へ風を送っている。だが、静かな偽装の寝姿はピクリとも動かない。そんな菊地を目の当たりに、豪門寺の悪意無きいたずらはエスカレートする。

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 考え無しに冷えた手をベットに潜らせた。菊地の九の字に曲げた太腿だか、ふくらはぎだかに豪門寺の冷たい指先が触れた。予想外の豪門寺の行動に、菊地は「ヒゃ‥っ」と、ヘンな声を上げて跳ねるようにベッドを軋ませた。

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 好機なチャンスを得て、菊地は布団の中で回転すると、目だけを覗かせた。「お早い、ご帰還ですね?」バツの悪そうな菊地を見下し、豪門寺は枕元に置いた紙袋へ視線を流した。いつまでも留まるその視線を追って、菊地も天使の柄のそれへ目をやった。「キミへの手土産だよ」「プレゼントですか?」菊地は念を押す様に言い換えた。僅かに豪門寺の唇がニヒルに歪んでいる。「サプライズですね?」もぞもぞと上体を起こす菊地の傍らに、豪門寺は腰掛ける。そして、菊地の僅かに上気した顔を覗き込んだ。「キミ、穿いてないの?」豪門寺の手にあるブリーフから、菊地は軽く目を逸らした。下手なコトは言えない。言えば墓穴を掘ることは目に見えており、菊地は聞けない振りをした。

 

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 「外は寒かったですか?」豪門寺の冷たい手の感触が名残惜しく、菊地はブリーフを取返しながら微笑んだ。「お風呂で温まってくるといいですよ」「‥そうだね」豪門寺は取り繕う菊地に苦笑した。それは、悪意無いいたずらと言うより、もっと意地の悪いコトをやりそびれた事への苦笑でもある。ぬくぬくした菊地の半身の尻、或いは太腿を突き割って急所に手を伸ばしたかったのかも知れない。それは単に、菊地を困惑させたかっただけなのか、豪門寺の突発的な行動に理由や意図などある筈もない。「キミさ、僕が風呂から上がるまでに 試着してみてくれないか?」不敵な笑みを浮かべた。「試着ですか?」なんだろう、と菊地は警戒心を募らせている。「サイズには問題ないだろうけど。キミが着たトコ 是非とも見せて欲しい」豪門寺は、「送り主の権限てヤツだよ」と、付け加えた。菊地は天使のソレから豪門寺へ目を上げ、また紙袋へ目を向けた。「似合うと思うよ、僕の見立てだから」豪門寺はそれだけ言うとベットから立ち上がり、肩から革ジャンを脱ぎ滑らせ、ソレを肩に載せた。戸惑いがちの呆けた顔で、菊地は寝室を後にする豪門寺の姿をぼんやり見つめた。

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 部屋を出る豪門寺を見届けると、菊地は一目散にブリーフに足を通した。丸分かりのオナニーを茶化されなかったことも、ベットに精液臭が漂ってなかったことも、菊地には幸いであった。パジャマ下を穿き整え、菊地はホッとため息を吐いた。「似合うと思うよ」と言い残していった代物には、感激と共に不可解さや疑問が押し寄せてくる。「なんだろう‥?」と、期待感に胸弾ませる。

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 手にした紙袋の天使が物憂げである。菊地は包を取り出し、プレゼントを開く。ピンクのベビードールの様な上下である。予期せぬ女性用下着に、菊地は絶句した。その女装セットには、リボンのついたウィッグがコーディネートされ、菊地は半無意識にウィッグを頭に載せた。

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  スケスケのベビードール。上はともかく、下は勇気がいる代物である。長々と菊地は放心していた。「どぉ?気にいった?」風呂上りの豪門寺が歩み寄って来た。慌ててウィッグを取り、菊地は豪門寺を仰いだ。

 

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 そのサイズ感から、それは、明らかに女装男子サイズなのだろう、と菊地は作り笑いを豪門寺に向けた。「着てみないとダメですか?」豪門寺は「似合うと思うよ」と、一点張りである。「でも‥これ‥」と、躊躇する菊地の肩に豪門寺は手を伸ばす。

 

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「キミさ~ 僕が何も知らないとでも思ってるの?」挑むような豪門寺の視線に、菊地は萎縮している。「キミのコトは、大概 分かっているつもりだよ?」と、勢いづいての嘘であり、菊地はその言葉に追い詰められた。「キミの女装が見たいんだよ」その一言に、菊地は観念したのである。

 

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「では、ボクがいい、て言うまで 後ろを向いてて下さい」菊地は覚悟決め、フリフリの下着に着替えたのである。浅い履き心地の、きわどいペアショーツに男性器がこぼれそうであった。菊地は股の間にソレを挟んで足を閉じた。そして、ウイッグも被り、軽く手で撫でつけた。寝室に鏡はなく、羞恥心から菊地の目が困惑して泳いでいる。『メイクでもしていれば、もう少し女装らしいのに』と、不本意さにも消沈なのである。「もういいかぃ?」承諾を得る前に、豪門寺は菊地へ向き直ってた。

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菊地は咄嗟に前を隠した。「悪くないな」「いや、想像以上に‥可愛い」 それは、豪門寺のホンネであった。無遠慮に、露わな胸から股間、透けたピンク地からのぞく乳首を執拗に眺め回した。「そんな、ジロジロ見ないで下さいよ」豪門寺は、股間を抑える菊地の手から、羞恥心に戸惑う菊地へ目を上げた。「その手、邪魔だな~ どかしてくれないか?」

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「い、一瞬ですよ?」股に挟んでいるとはいえ、半分勃ちかけている。「スケスケで、恥ずかしい‥です」下からの眺めを狙って、豪門寺が肩肘に体重を移動させる。「はら、早く!」目が貪欲に菊地を舐め上げている。

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 豪門寺は、スケベ笑いを満面に浮かべている。「そのまま、ゆっくり回って見せてくれないか?」菊地の額から汗が吹き出し、首筋を流れた。「え゛~それは、出来ません」むくむくと充血していく下半身に、菊地は手で股間を抑え込む。

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 「女装なんですから、きれいな上っ面だけにしといて下さい」豪門寺は苦笑した。菊地の女装が見たいだけなら、購入もコスプレ衣装でいい訳である。半裸の菊地を前に、豪門寺は菊地の下半身が見たかった事に、その時、気付いたのである。満面のスケベ笑いを募らせ、ソレを押し殺すように豪門寺は唇をきつく結んだ。『そうか、僕はペニスが見たかったのか‥。菊地くんの』

 


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